【 研究紹介 】

 水と油のように,互いに混ざり合わない性質のものを混合しても,結局は完全に溶けあうことはなく,水の層と油の層に分かれてしまいます。このような現象を『相分離』といいます。相分離は液体中だけではなく固体中でも見ることができます。例えば、水と相性の良い高分子(親水性ポリマー)と油と相性の良い高分子(疎水性ポリマー)を混合した場合です。条件にもよりますが、このような系では数百ナノメートル~数十マイクロメートルのスケールでポリマーの集合体が分散したような相分離構造になります。

では、親水性のポリマーと疎水性のポリマーが連結した『両親媒性ブロックポリマー』の場合はどうなるでしょう?

この場合も、親水性ポリマーは親水性ポリマー同士、疎水性ポリマーは疎水性ポリマー同士で集まって、相分離しようとします。しかし、親水性ポリマーと疎水性ポリマーは結合によって繋がれているため、それぞれのポリマーの大きさに相当するスケールでの相分離となります。一般的なポリマーの大きさは数ナノメートルから数十ナノメートル程度であるため、相分離構造も数ナノメートルから数十ナノメートル程度となります。両親媒性ブロックポリマーが生み出す非常に微細なスケールの相分離構造のことを『ミクロ相分離構造』といいます。

図.両親媒性ブロックポリマーが作り出す様々な自己組織化構造(ミクロ相分離構造)の形態.Aブロック,Bブロックの体積比によってスフィア,シリンダー,ラメラなどの形のドメイン(集合体)が構築されます.このドメインの間隔は10~100 nm(10-8~10-7 m)と非常に小さいものです.

このミクロ相分離構造の中には、親水性の領域と疎水性の領域が規則的に存在しています。この構造をテンプレート(鋳型)や足場として上手に利用すると、ナノサイズの粒子やワイヤーが規則的に配置されたナノ構造体を簡単に作製することができます。特に、膜面に対して垂直に配向しているシリンダーやラメラはテンプレートとして利用するときに任意のアスペクト比(高さ/幅)のナノ構造体を得ることが可能なため、非常に魅力的です。

図.液晶配向を駆動力とした垂直配向ミクロ相分離構造の形成.

一般的には垂直配向ミクロ相分離構造を作り出すことは非常に難しいとされています。ところが、側鎖に液晶メソゲンを持つ側鎖液晶型ポリマーを疎水性ブロックに用いた両親媒性ブロックコポリマー薄膜では、加熱-冷却過程での液晶分子の配向を駆動力にして、垂直配向ミクロ相分離構造が簡単に形成できることが報告されています。(Iyoda et al., Macromolecules, 2002)

波多野研究室では、側鎖液晶型ポリマーが持つ駆動力に注目した様々なブロックポリマーの合成や、ミクロ相分離構造を利用した分子センサーの開発などを行っています。

①様々なアーキテクチャの側鎖液晶型両親媒性ブロックポリマーの合成

両親媒性ブロックポリマーが作り出すミクロ相分離構造をより微細なものにするためには、それぞれのブロックの分子量を小さくする必要があります。しかし、分子量を小さくしていくとポリマーの特長の一つである成膜性(成型性)が失われてしまいます。分子量の小さな複数のブロックを組み合わせて大きな分子量のポリマーとした『マルチブロックポリマー』は、ミクロ相分離構造の微細化と成膜性の間のジレンマを解決することができる構造として注目されています。

また、マルチブロックポリマー中のポリマーブロックはポリマー末端の束縛効果により、親水性ブロック・疎水性ブロック1つずつで構成されるジブロックポリマーとは異なる物理的性質を示す可能性を持っています。

私たちのグループでは、親水性ポリマー(PEO)と疎水性液晶ポリマー(PMA(Az))を用いて、様々なアーキテクチャのマルチブロックポリマーを合成し、そのミクロ相分離構造や各ポリマーの物理的性質の変化を調べています。

図. PEOとPMA(Az)を構成ブロックとしたマルチブロックポリマーの例.

② ナノシリンダーチャネル膜の創製と透過膜への応用

側鎖液晶型両親媒性ブロックポリマーが形成するミクロ相分離構造は、親水性のシリンダードメインが膜面に対してほぼ垂直に配向する特徴を持っています。水と相性の良いこのシリンダードメインは水が通り抜ける道(チャネル)としての役割を果たします。一方、水と相性の悪い物質や、チャネルのサイズより大きな物質は膜を通り抜けることができません。つまり、ナノメートルスケールのシリンダーチャネルをもつこの膜は、水の中に存在するナノメートルスケールの物質を除去することができることになります。

単純にシリンダーチャネルのサイズ(直径)を利用して水を浄化するのも面白いですが、シリンダーを構成する親水性ポリマーに特定の物質に吸着できる機能や、刺激によりシリンダーの大きさを変化できるような機能を持たせることができれば、より便利な透過膜になることが期待できます。

このテーマでは、様々な親水性ポリマーと側鎖液晶型ポリマーを組み合わせた新規両親媒性ブロックポリマーを合成し、液晶配向を駆動力とした垂直配向シリンダーミクロ相分離膜(ナノシリンダーチャネル膜)の作製を行います。そして、作製した膜をもちいて水溶液の透過実験を行い、形成されてナノシリンダーチャネルの機能について検討します。

図. 刺激応答性ナノシリンダーチャネル膜.

③ ミクロ相分離膜を利用したナノ構造体の作製と化学センサーへの応用

金属ナノ粒子では局在表面プラズモン共鳴(LSPR)という、特定の波長の光を吸収した際に発生するプラズモンがナノ粒子表面に局在化する現象が見られます。プラズモン共鳴が局在化することにより、ナノ粒子表面には強い電場が発生します。金属ナノ粒子表面のLSPRを利用した分子検出法として、表面増強ラマン散乱(SERS)による分子検出法があります。

ラマン分光法は赤外分光法と相補的に用いられる分光法として有名ですが、試料にレーザーを照射して発生するラマン散乱光は弱いという欠点があります。ところが、ナノ粒子表面の局在表面プラズモン領域では、光と分子の相互作用が著しく増強されることで、非常に強いラマン散乱光が発生します。SERSを利用した分子検出は原理的には1分子検出も可能であると言われています。一般的に、SERSを利用した分子検出は定性分析法として使われていますが、私たちは定量分析も可能なSERS基板の開発を検討しています。

定量分析を行うためには、測定時に再現性の高いデータが得られることが必要となります。両親媒性ブロックポリマー薄膜が形成するミクロ相分離構造は、均一な大きさの金属ナノ粒子を規則的に並べることができます。規則的に配列しているということは、単位面積当たりのナノ粒子の数や粒子間隔が揃っているということです。従って、ミクロ相分離構造を利用した金属ナノ粒子基板は、定量分析が可能なSERS基板として有望であると言えます。

図。ミクロ相分離薄膜を用いて作成されるナノ構造体.

④その他

親水性ポリマーと疎水性ポリマーを混合してできる数百ナノメートルスケールのミクロ相分離構造をテンプレートとしたナノ粒子作製や、高知県に豊富に存在するバイオマス資源を用いた研究も進めています。

このテーマでは、様々な両親媒性ブロックポリマー薄膜をテンプレートや足場に用い、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、金-銀コアシェルナノ粒子を規則的に並べた基板の作製を行い、そのプラズモン特性や化学センサーへの応用について検討しています。

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高知大学理工学部化学生命理工学科

渡辺・波多野・仁子研究室

Faculty of Science and Technology, Kochi University

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