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① ピレンを基盤とした新規蛍光ソルバトクロミック色素の開発

 これまで、ピレンと呼ばれる蛍光性分子を基に、様々な蛍光プローブを開発してきました。そのうちの一つが、下図に示すような『蛍光ソルバトクロミズム』機能を有するピレン誘導体です。
 当研究室で開発したピレンを基盤とする蛍光ソルバトクロミック色素は、周囲環境に鋭敏に応答して劇的に蛍光の色調を変化させます。また、蛍光量子収率が高く、さらに光安定性にも優れています。こうしたピレン誘導体を用いることで、細胞を構成する生体膜の lipid order (相状態:脂質膜のパッキングの程度。)の評価、細胞内コレステロール分布の可視化などが可能となるため、現在、生物物理学・細胞生物学分野にて利用されています。
​ また、最近ではピレンを基盤とした蛍光ソルバトクロミック色素はヒト皮膚組織イメージング用の蛍光プローブとしても優れていることが判明しつつあります。そのため、現在は皮膚病診断用の材料としての研究も推進しています。

② 超高輝度蛍光ナノエマルジョンの開発と生体二光子励起蛍光イメージングへの応用

 ナノエマルジョンとは、内核が油、外殻が界面活性剤からなるナノサイズの粒子です。液-液界面からなるソフトな材料ですが、希釈や温度変化に強く、マウスの血中でも安定に構造を維持できる特徴があります。また、アメリカ食品薬品局(FDA)に認可された材料から構成されるため生体適合性が高く、さらに内部が油であるため脂溶性物質の包摂性にも優れています。仁子研究室では、こうしたナノエマルジョンに多量の蛍光分子を集積させることで、超高輝度な蛍光”ナノ”プローブの開発を行っています。

 最近では、以前に仁子研究室で開発した優れた二光子吸収性・蛍光量子収率を有するピレン誘導体 PY の脂溶性誘導体「LipoPYF5」を合成し、それをナノエマルジョンに集積させることで、量子ドットをも凌駕する極めて高い輝度を有する蛍光ナノプローブの開発に成功しました。このナノプローブをマウスに投与し、二光子励起蛍光イメージングを実施したところ、世界で初めてマウスの脳深部(海馬CA1領域、脳表面から 1.1 mm)の血流観察に成功しました。同材料を用いることで、脳の高次機能を司る大脳皮質から海馬領域に至るまでの脳血管・血流と神経回路機能の観察が可能となるため、脳高次機能のメカニズム解明や、脳血管が関与する様々な疾患の診断、予防および治療法の開発に繋げることができると期待されます。

1.tif
2.tif

 近年、蛍光分子を利用したイメージング技術、すなわち「蛍光イメージング」が注目されています。蛍光イメージングでは、培養細胞や疾患モデル動物に対して蛍光分子を投与し、その蛍光分子が発した光(=蛍光)を顕微鏡で捉えて画像化します。これにより、細胞小器官の構造、動物の組織・器官の構造、あるいはそれらの構造内で生じる現象を詳細に観察することができます。こうした蛍光イメージングは、未だ謎の多い細胞機能の理解の他、脳神経疾患や脳血管障害といった難治性疾患のメカニズム・治療法の解明に役立つ技術であると考えられています。

 「蛍光イメージングで観察できるもの」というのは、併用する蛍光分子(蛍光プローブ)の性能に大きく依存します。例えば、強く光る分子があれば、それだけ生体の「深い位置」を観測しやすくなり、これまで観測できなかった現象の発見に繋がる可能性があります。また、新しい機能をもつ蛍光分子があれば、それに伴い新しいイメージング技術や分光法の開発に繋がることもあります。

 

 仁子研は2016年12月に発足しました。上述のように、「新しい蛍光分子が新しい科学を拓く」と信じ、日々蛍光分子の研究を行っています。同グループの渡辺教授・波多野講師との共同研究に加え、山口大学理学部の川俣先生、鈴木先生や、愛媛大学医学部の今村先生、川上先生、そしてフランスストラスブール大学の Dr. Andrey S. Klymchenko 博士と共同した応用研究にも取り組んでいます。

【 研究紹介 】

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